鯨波事務所の解体終了
丘の上の小さな城のような白い建物が好きだった。
広い更地は表情を失った仮面のように、感傷に沈もうとする自分を拒絶しているように感じる。3年前の地震による被害のあと、丁寧に修理した心算だったけれど、その後立ち寄る機会が殆ど無くなっていた。
社長室に置いていた仏様もお参りする事もなくなり、建物に宿った神様達は寂しかったに違いない。申し訳なく、心が痛む。
春になったら崖側に木の柵を設け、木犀のベンチなどを置き、下を通る電車を見ながらビールが飲めるようにしたい。跡地には花を植えたり、木を植えたりして土地の神の機嫌を直してもらおうと考えている。
来週、最期までこの建物にお世話になったネットワークシステム課の面々と、課員でもある有坂宮司による地鎮祭を執り行いたいと思う。
この土地と建物を入手した時、ここに住む霊達を鎮めるのに随分と時間がかかった。社員がみんな帰った後で、一人般若心経を唱え怒りを解いていった。半年ほど掛かったような記憶が残っている。暫らくまたこの地に通うことになる。何をするでもなく、一人ブツブツと言いながら地の神達と語り合うのだ。
事情の見えない人たちからは、変な行動に見えるのかも知れない。かまうことか。
オイおさむ 明日より目指せ 風の果て 草風