見残しの塔
年老いた象は死に場所を求め、群れから離れやがて朽ち果てていくという。
何故か、随分と以前からこの話が好きだ。
見残しの塔
周防国五重塔縁起
久木綾子が14年の歳月を掛けて84歳で書き上げたというこの本が好きだ。何年か振りに書棚から引き出し、ゆっくりと時間を掛けて読んでいる。そろそろ乱読の世界から脱出を図る時期なのだろう。
かつて、この島国に暮らす人達が、神々と共に生きた確かな時代があった。
源氏の一族新田の家系を伝える若狭新田家が歴史の中に溶けて行く、日向の山村椎葉村の大工を志す若者が、何かに引きつけられるように周防国瑠璃光寺の五重塔に引き寄せられて行く。そんな物語が、今は消えてしまった侍の矜持と運命に翻弄されながら己の幸せを掴み取ろうと足掻く女のつぶやきが古寺の苔の中から聞こえてくるような、いい本だ。
新田と言えば、行兼の新保城は高橋九郎頭という新田の子孫の城だった、との言い伝えられていた。落城の際に死んだ13人の塚が、今もやや離れた山の上にある。
本を片手に、今も残る五重塔を見に行きたい。