老年よ、大志をいだけ!

2006年01月16日 風の宿

老年よ、大志をいだけ!
Old Boys, be ambitious
                                         風派同盟 祭酒  石塚 修

 子供達は自分の人生を歩き始め、妻には見放された。考えてみれば飯を作らせたり、子を産ませたりと随分勝手なことをやってきた。だから今更なのだが・・・

 何時の間にか「還暦」を超えていた。いつまでも「アンチャ」だと思っていたが、そうもいかないらしい。この俺が「高齢者」?! 冗談じゃない!
今更ながらなのだが、60年と言う時の流れの激しさに呆然とする。微かな敗戦の衝撃の記憶、集団就職で故郷を離れてゆく「柿の木坂」のような友人達との別れ、安保闘争や学園紛争、日本列島改造論、バブルとその終焉、失われた10年・・・・。
 しかし、この60年は多難な時代だったとは言え、世界史的にも例のない「幸せな時代」だったのではないかと思う。夢を追求できる自由があり、真面目に努力すれば報われる、そんな時代が、そんな国が他の何所にあったのだろうか。
 親の世代は赤紙一枚で、営々とした努力も才能も未来も全てチャラにさせられ死地に送られた。そんな不条理から比べたらとんでもなく幸せな世代なのだろうと思う。
 また若い人たちを羨ましいとは思わない。幸福の尺度として比較しようもないが、「暗闇」を知らない世代は明るく陰影がない分、人生の深い味わいを知らないのではないかとさえ思うこともある。
 我らの時代には「夢」もあったし、プロジェクトXもあった。自らの力で手にした鳥肌の立つような感動を記憶の中にいくつか残している。
 幸か不幸か、俺はまだ戦場に居る。45歳で建設業からIT業界に飛び込んで20年近くになり、この間の情報環境の変化には戦慄さえ覚える。しかしまだ変化は終わったわけではない。むしろこれからだと思っている。味気ないと思われているデジタルの世界も、コンピューターの性能、利用技術、通信速度等の更なる革新により、多分、よりもっとアナログ世界に、言い換えればもっと人間に近づいてくるはずだ。
 人間にこんな化け物みたいな電子頭脳を与え神は人間に何をせよと言うのか、何時もそんな疑問をもち続けてきた。決して殺戮の為だけではなかろう、と。しかしもうすぐ、きっと素晴らしい答えが出て来るはずだ。そのことが楽しみであり、この業界に身を置かせて貰える事が何より嬉しい。
 動物的な感だけを頼り生きてきたが、情報が多すぎれば時代に流され、少なすぎれば置いて行かれる。本質を見分ける力が必要なのだろうが、それとまたビジネスの季節を判断するのはもっと難しい。しかも風の変化の兆しを人に伝えるのは、これは至難の業に近い。思案し、迷い、堂々巡りの中で人生の時は確実に消耗している。

 時折、何か大きな忘れ物をしてきたよう不安に襲われる。俺はこのままで良いのか、と。
 やがて老兵は消え去る時期が来る。ボロ屑になるまで頑張るのも一つの美学だが、リタイヤし初めて本当の人生があるのかもしれない。家族を養うためでなく、会社の繁栄の為でなく、地域のためでなく、自分のためだけの人生があるのかもしれない。
 残された時間はもう少なくなっている。しかし、「健康優良爺」でさえあれば、もう一勝負は出来るビミョーな時間なのではないか。60歳は気持ちも、身体も昔で言えば40歳台。まだまだ若いのだ。「うっ、ふふふ」なのだと、世間様にもう一泡吹かせて、あ、いや、もう少し人生の味付けをしたいものと不埒なことも考えている。

 老年よ、大志をいだけ! なのだ。
 老年は自由である。いや、自由になれる、と俺は思っている。試しに幾らかの財産持って現状から逃げ出してみるのも一興かも知れない。少しの間でいい、自分が何者でもない縁もゆかりもない土地で自由に過してみるのはどうだろうか。痴呆症と間違えられ、強制送還がオチかも知れないが、一度自由を味わった心と身体は一味違った精彩を放ち、違った老後を与えてくれるハズだと思う。
 人生は不思議だ。願ったことは実現するし、時には天候すら味方をしてくれることもある。しかし、願わないことは何も実現しない。どんな時にでも前向きに生きる、ってことは素晴らしいことなのかも知れない。

 バブルの崩壊以降年金など今後の経済不安が増している。だけど「お金」が無ければ何も出来ないと言うのは寂しい話だと思う。お金がないから空想が膨らみ、夢が生まれ、実現する為の努力が楽しくなり、一杯の酒に友の輪が広がり、人生にオーロラが輝くのだとも思う。
 考え方次第で人生は如何様にもなる。「感情」と「心」の違いに気がつけば簡単なことだ。そして夢が不思議なエネルギーを生み出すことも。だからどんな夢でもいい。読み残した本を読破すること。人生の意義を考え直してみること。旅の空で新しい出会いを楽しむこと。地域のために働くこと。新事業にチャレンジすること。幾らでもある。
 成功する必要はないし、稟議書を書く必要もく、管理者も居ない。現役の時には願いようもなかった「自由な時間」が山の様にあるのだ。

 老年よ、大志をいだけ! 未来は我らの為にあるのだ