蛍
夕闇の中、庭に佇んでいると一匹の蛍が飛んできた。
目の前を何度か舞い、ベランダの屋根に止まって動かなくなった。
可哀想に、と思い何とか飛ばしてやったけど、やはり屋根に止まってしまった。
そこが彼の安息の場所だったのかも知れない。
「余計なことしないでよ!」と蛍に怒られてしまったような気がした。
象は最後の時を知ると、群れから離れ、知らない大地に横たわるという。
彼等の行くそこには何があるのだろう。
老兵は死なず、ただ消え去るのみ。
マッカーサーで有名になった言葉だが、高齢になっても会長や理事長を辞めなくて困っている、と相談があった。
「殺せ !」と一言アドバイスしてやったが・・・
聞けば、理事長の現職で死ぬと花輪の数が大きく違うんだそうだ。
花輪の数を楽しみに生きている人達もいる、いやぁー、そうなんだ ! 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・
朝夕、スズメたちと遊んでいる。
俺の顔を見ると直ぐに飛び立って行く・・・憎っくいねぇー。
友人にボヤいたら、石塚さんの顔見て逃げるのはスズメたちだけじゃねぇこってと来た。・・・腹の立つ男だねぇー !
でも、中に可愛いのがいて、とにかく一番に飛んでくる。
多分「デブリ姫」かも知れないが、彼女だけには親切にしていたい。
スズメが俺の愛を受け入れてくれたら、本当に嬉しいんだけど・・・。
5歳の女の子が「もう、ゆるしてください」と書いて死んだという。
あの子のために、生まれて初めて俺は祈りたくなった。