ルパン三世と妖怪たち
俺の家には妖怪が棲む。いや、女房のことではない。
台所に立ったけれど何をしに来たのか忘れ、水を飲んで部屋に戻る。
ウンコするのを忘れ、屁だけしてトイレから出てくる。いやはや !
大事なことだから覚えておこうとしたメモがなくなり、机の上に置いたスマホが消えている。
イライラが頂点に達した頃、思いもよらぬところで見つかる。
どうもルパン三世の孫達が要らぬ「ハチケ」をして遊んでいるとしか思えない。
彼らとの遊び方に慣れて来ると、それもいいのだが・・・。
「忘却とは忘れ去ることなり」君の名は・・・誰だ ? ナンテ惚ける術も身につけ、痴呆を女房に悟られないようにしている。
妖怪の効用もある。
古い本がみな新鮮なのだ。
付箋が貼ってあったり、角を折ってあったりするから一応「読んだ」ハズなのだが・・・本の中を徘徊し、読むたびに感動している。
特に浅田次郎の「蒼穹の昴」シリーズはいい。
清朝末期から満州国、日本の敗戦に至る東アジアの歴史の流れとその時代に生きた人々の呻きが聞こえてくる。
歴史を翻弄し、歴史に翻弄された西太后、溥儀等紫禁城で栄華を極めた皇族達の末路、馬賊の頭目張作霖の爆殺「満州某重大事件」、餓えと戦争で万里の長城の関外で虫けらのように殺される人達の物語の奥底に、胡弓の静かな調べが流れている。
「満州柏崎村」に未来の夢を懸け、一転して敗戦による悲惨な帰還の旅。
身近な人達の実話が背景に流れ、哀しさが覆い被さってくる。
国民を捨て、拉致された人を取り返そうとはしない「国」とは何なのだろう。
日本は何処で間違えてしまったのだろうかと思う。
浅田次郎は星にも時間があり、命ある者の生と死の哀しさを知る人にしか優しさは生まれてこないと呟いている。
優しさとは、大切な人を守る為に鬼になれることなのだろう。
時間は流れているようで、現実には「今」という時しかない。
しかし、過去は記憶にこびり付き、遺伝子に書き加えられ、「今の時間」に生きている。
難儀なこっちゃ。
天の恩寵でもある痴呆を、妖怪やルパン三世と遊びながら毎日を楽しんでいる。
何でもかんでも遊びにしてしまう性格に「?」ではあるのだが・・・それにしても政府高官の物忘れも酷いけどね。
柏崎日報 10月15日掲載分