世間並みに、此処鯖石も梅雨の香が漂う。
垣根の紫陽花が咲き始め、道行く人を楽しませている。
「人間の厄介なことは、人生とは本来無意味なものだということをうすうす気がついていることである。古来、気付いてきて、今も気付いている。
人間は王侯であれ乞食であれ、全て平等に流転する自然生態の中の一自然物に過ぎない。
人生は自然界において特別のものではなく、本来、無意味である。と仏教は見た。これが真理なら、例えば釈迦なら釈迦がそう言いっ放して去ってゆけばいいのだが、しかし釈迦は人間の仲間の一人として、それでは寂しすぎると思ったに違いない。」
司馬遼太郎「あるうんめいについて」より