「蜩ノ記」
最悪の体調と屋根の復旧工事の慌ただしさで自宅にいるのも難儀で、信濃路を走ってきた。つまり、それだけの体力はあったと言うことなんだろうが・・・。
まだ梅の花が所々であるだけで、桜も咲いていない信濃路は、だけど北アルプスの山波が続く松本は心が安まる。
葉室麟の直木賞受賞作「蜩ノ記」は心に染みた。
人間は何時か死を迎えるのだけれど、切腹の日まで凛として生きる1人の侍の日常に、不甲斐ない自分の心が静められる。
全編に、近くの貧乏百姓の倅源吉の幼い妹「お春」が切ないほどの存在感を以て迫ってくる。70歳が近くなって、妙に涙脆くなってしまったのか、小説の主筋もさることながら、源吉の背に負ぶわれたお春が本を飛び出して、今もそこにいる。