「天才」 石原慎太郎
作家としての「本音」が聞こえてこない。
人間としての『味』と言った方が良いのかな
丁度、青木直人の「田中角栄と毛沢東」を書棚から引っ張り出し、読み終えたところだったから「天才」を買ってみた。
一言で言えば「ゴミ」だね。
「俺」の一人称で語る「つぶやき」のような体裁だけど、角さんの子供達を実名で語るなんて「小説」じゃない。読み終えて、こんなに後味の悪い本は久し振りだ。
石原慎太郎もボケたのかな。
浪人時代、神田の出版社で早乙女勝元や早船ちよ、「人間の条件」の五味川純平に接したことのある人間にとって浅すぎる、のだ。社長は共産党の論客であり、色々な人達のお茶出しをさせて貰った。当時、お茶出しは住み込みの仕事であり、夜遅くまで続く高名な人達の談論風発は側で聞いていて涎の出そうな時間だった。
だから、と言っては主体性がないが、家に戻っても共産党シンパみたいであり、地方選挙の時は共産党候補の応援弁士も勤めた。
当時、俺は田中角栄が許せなかった。
しかし、ロッキード事件の後、あの22万票を掘り起こした選挙はギラギラに燃えた。あの野立ちの選挙演説を聞いた者にとって、「角さん」は鳥肌が立つような存在だった。
やがて俺は「明日の鯖石を創る会」を組織し、バスを連ねて目白に押しかけた。
草の根の、あの祈りにも似た思いを、石原慎太郎如きが知るはずもない。「田中角栄と毛沢東」ではそれが針を刺すように伝わってくるのだが・・・。