ランの散歩
加納の自宅の近くを流れる鯖石川は、昔から7月14日の田島集落の毘沙門様の縁日に、必ず洪水になる。学校は水浸しで当然に休み。悪童達は水嵩の増した小川に台所の笊を持ち出し小魚取りに忙しい。
大きなタモを持った大人は大物を、笊を手にした子供は小魚を、夫々の獲物を見せ合いながら「気を付けろ!」と一言残し、もう次の魚場に移動している。
田圃は全面泥水に埋まり、今年の収穫は・・・心配してもしょうがないのだろう。水に過不足なし、という。なるようにしかならない。それが自然の中で生きるということだ、と知った。
何時もより早く家に帰り、ランに謎をかけられて、散歩に出る。
この犬は吼えたり飛び掛って散歩に連れて行け、とは言わない。ただ、じっと俺の目を見つめ「ねぇ、連れて行ってくれる?」 実を言えば俺はこういうタイプに一番弱い。
「仕方がない、散歩に行ってくるか」その言葉が終わらぬ内に脱兎の如く前の公園に向かって走り出している。人間の年で言えばもう70歳を越えているはず・・・なのだが陽気なランは関係ないみたいだ。
でも、時折長い散歩をすると「予定外のコースだ、年寄りに無理させないでくれ」と座り込んでしまう。
SOSを発信し、女房が車で迎えに駆けつけるのを待っている。何とも横着な犬だが、まだ死にそうにない。もう十分に生きたから、そろそろ良いんじゃない? どうだ? ラン!